パリを拠点に活動するトーマス・ソヴァンは、中華人民共和国が誕生した1949年以降の市井の人々が撮ったファウンドフォトをコレクションし、誰が手放したものに新たな価値を見出すことで作品化する、錬金術師のようなアーティストである。2009年に北京北部にあるリサイクル場に破棄された大量のネガを買い取ってから定期的にネガを購入し続け、現在では、その数80万枚以上にのぼり、いまなおマーケットやオンラインでも写真集やポストカードを収集している。ソヴァンは、膨大なコレクションの中から、誰かひとりに焦点を当てるのではなく、小さな出来事を集めることでユニーバーサルな物語を見出す。
展示作品「Great Leaps Forward」は、2016年、北京のフリーマーケットでソヴァンが購入した、ひとつのビニール袋の中に入っていた写真を再編集したシリーズ。その中身は、中国・西安体育学院の写真学科の学生によって1960年に撮影された、さまざまなスポーツの基本的な動きをとらえた写真だった。これらはソヴァンがいままで見つけたファウンドフォトの中で、唯一中国の大躍進政策時代(1958〜1962年)のもの。つま先まで伸びた身体の動きの美しさが観る者を魅了する。撮影者が不明でありながら、スポーツの歩みを記録する資料としての役割を持つ写真を、ソヴァンがアート作品として蘇らせた。
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