中村健太がとらえる世界の断片には、いつもおかしさと違和感が同居している。3Dメガネを使ったシリーズ「Your story」では、被写体がこちら側を見ているかのように鑑賞者に意識させることで、見る・見られるという関係性を逆転させた。さらにハレとケの場面を演出することを通して、鑑賞者に自身の物語を想起しようと試みる。
子どもの体に塗りたくられたキスマークが印象的な「Offerings」シリーズは、神事にまつわるような風習を中村が独自にでっち上げ、その仮定を元に再現した写真群だ。「その土地土地に根付く風習はどのタイミングから神を宿すようになったのか? 人が作ったものでありながら人智を超えた何かが確かに在るのではないか」という着想に端を発し、“神事”に想いを馳せることで生まれた本作は、中村のユーモアのセンスが弾けた新境地だろう。自身にとって写真はコミュニケーションツールのひとつだと語る中村は、被写体と対話する中で生まれた違和感やさまざまな感情をスパイスに、日常を鮮烈な一場面へと転換することで独自の世界を築き上げている。
![]() |