旅を重ねながら、そこに暮らす人々の生活や歴史文化を独自の視点で切り取り、それらを新しい文脈で再構築してきた清水はるみ。一方で、未知のモノが並ぶ不思議なスティルライフ写真の制作も精力的に行っている。その延長線上にある本作では、イタリアの修道院で発見され、15〜16世紀に書かれたとされながら、いまだ未解読の古文書『ヴォイニッチ手稿』をテーマにしている。
暗号めいた文字の羅列と不可思議な植物や天文図の挿絵が描かれたこの本は、著者もタイトルも謎に包まれている。清水はそこに描かれた植物の絵をもとに、実在する植物の写真に加工を施し、あたかもそれらが現代に存在しているかのような写真を作り上げた。約30万種とも言われる植物の世界では、日々人工的に新種が作り出され、これらの種が存在する可能性がないとは言い切れない。もしかしたらこの世界のどこかには、私たちの知らないモノやパラレルな世界が存在するのかもしれない。フィクションと現実が奇妙に交錯する一枚の写真からは、さまざまなイマジネーションが湧き上がってくる。
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