⼤坪晶
「Shadow in the House」(2017-)
1817年に当時の信濃小諸藩主であった牧野康長が小諸城に建立した武器庫の暗がりの中で、大坪晶による「Shadow in the House」が幻想的に浮かび上がります。
ここに写っているのは、戦後、GHQによって接収された個人住宅です。時代の変遷とともに持ち主が変わった建物に残された多層的な記憶を表現するために、4×5カメラを使用し、歴史的建造物とともにダンサーのパフォーマンスの軌跡を“記憶の影”として長時間露光でとらえています。
消え入りそうな人影を淡い色合いで焼き付けた一枚の写真は、誰もが持つ普遍的な「記憶」を呼び起こす力をたたえています。かつて確かにそこで生活していた人々はもはや実在していないけれど、そこに写るイメージから、私たちは何かの気配を感じとり、人の暮らしや彼らの思いに想像をめぐらせ、失われた時間を感じることができるのです。
「住宅」という人とは切り離せないものを舞台にすることで、人と記憶、接収の実態、生活様式の移り変わりなど、異なる位相から今日の私たちの文化や精神についても考える機会となるでしょう。
リアルとフィクションの間をたゆたいながら、写真から生まれるもう一つの物語に思いを至らせてみてください。
Profile
⼤坪晶
1979年、兵庫県生まれ。
2011年東京藝術大学先端芸術表現専攻修士課程修了、2013年にプラハ工芸美術大学修士課程修了。
近年は、アメリカ国立公文書館にてアーカイブ写真をテーマとした「Shadow in the House」シリーズに取り組む。
眼には見えない記憶を可視化しようと試みながら、記録と記憶の双方から写真の在り方を捉える。