二本木里美
「'70s Tokyo TRANSGENDER」(1970年代)

⼤坪晶「Shadow in the House」

「スナック夕子」の看板を掲げ、一面蔦の葉に覆われた昭和レトロの雰囲気が漂う建物を、1970年代に撮影された二本木里美の作品がジャックします。インパクトのあるポートレイトは、当時20代だった二本木が、深夜の六本木、青山、赤坂、新宿といった東京の繁華街のゲイバーやゲイクラブに飛び込んで撮影したトランスジェンダーたちの肖像。「ようこそ、いらっしゃい!」という彼女たちの声が聞こえてくるようです。
50年前といえば、LGBTQやジェンダーレスといった概念がまだ市民権を得ていない時代、マイノリティにとっては今よりさらに生きづらい世の中でした。アンダーグラウンドの世界でしか自身の美意識を表現できない彼女たちの表情は、時に優しく時に物悲しくも見えますが、それでも懸命に生きるエネルギーに満ちています。
思いのままのファッションやメイクで女装して、カメラの前で自由にポーズを決める姿には人を惹きつける毒気があり、魅力的で撮影が楽しかったと語る二本木。お店に通ううちに心が通じ合い、ドレスアップした姿で待ち構え、撮影を頼まれるようになっていったといいます。
ヴィンテージプリントを掘り起こして写真集にまとめられたばかりのこの作品。半世紀の眠りから覚め、2020年代の読み解き方でもう一度鑑賞されることを待ち望んでいたのではないでしょうか。

⼤坪晶「Shadow in the House」

⼤坪晶「Shadow in the House」

©SATOMI NIHONGI

Profile

二本木里美

横須賀生まれ。清泉女学院を卒業後、女子美術大学写真部で写真を学ぶ。
1970年から「TRANSGENDER」「LONGHAIR」の写真を撮り始め、雑誌での連載を担当。
荒木経惟の初期作品「ゲリバラファイブ」にもゲスト参加。
2021年にKOMIYAMA TOKYOから『'70s TOKYO TRANSGENDER』、『’70s TOKYO LONGHAIR INVERTED』を出版。

AREA展示エリア

旧スナック夕子

住所:長野県小諸市相生町2-2-2
展示時間:常時鑑賞可能